『人の命は焔と燃やせ!』
藤田が、此方に背中を向けたまま、
何やら、低い声で、
呟く様に歌っている。
「人の命は焔と燃やせ。
蟲の命は焔に燃やせ。」
その前夜、三船の演ずる主人公達が、
村人に変装し、身を隠していた村の祭で
村衆が歌っていた「祭歌」の歌詞。
三船達は、変装がばれて、藤田に
捕まってしまう。
藤田が、突然、叫ぶ。
「良し!燃やすぞ!」
そして、地を響かせて
疾走する馬の群れ。
日本映画史上、最高に
ファンタスティックな
「あのシーン」へと
怒涛の如く雪崩込んで行く。
正に急転直下!
此れは、ルーカスでも、少なくとも
今迄の所、不可能だった。
ダースベイダーが、アナキンとして、
息子ルークを助ける、あの場面でも、
黒澤の本作には、匹敵しない。
残念ながら。
人間が描かれているのだ。
本当の人間が。
追記。
藤田が、初めて登場する場面。
暗がりの中に立って、
暫らくは、シルエットしか見えない。
近寄ってきて、顔を見せると
大きな「痕」がある。
三船が、「御主は変わったな。」
スティグマ・「聖痕」と言う
持って生まれたものではなく、
「トローマティックな経験」、
即ち、トラウマ・「痕」が
人を変える。
アナキン・スカイウォーカーは、
満身創痍で、「ますく」を
被り、ダースベーダー卿に。
「痕」の数の問題では無い。
どの位、深い「痕」か、
と言う問題でも無い。
藤田は、顔を隠す事無く
「痕」と共に
生きて来た。
「裏切り御免!!」
藤田が叫ぶ時、彼と
共に生きて来た
彼の「痕」が輝く。
田所兵衛と比べると
シャア・アズナブルが
「坊や」とは言わないが
「ガキ」の様だ。
「堕ちた彗星」ではなく、
最初から、「地上的」為らば、
彼にも、別の生き方も有っただろう。
或いは、『ペイ・フォワード』の
ケヴィン・スペイシーが、
顔の左半分ほどに、大きな
火傷が残り、本当の差別を体験した
障害者として、ジュニアハイスクールで、
授業を続けていたとしたら。
あの映画は、安直な「宗教物」に
為らずに済んだのに、
と言う可能性も有る。
其の意味では、『ブラックジャック』は
田所兵衛系列の、「ダークヒーロー」
かも知れん。